ユーフォリアの猫たち

水峰愛のスピンオフ

自分を愛する教科書②長田杏奈「美容は自尊心の筋トレ」

この本については、必ずブログに書こうと思っていたら時間が経ってしまった。

令和元年にふさわしい、鮮烈な傑作。

あー、時代が動くなと、大袈裟でなくそんな気がした。

 

タイトルだけ見ると、「がんばって誰よりも美しくなって、自尊心を高めましょう!」と言う意味にとれなくもないんだけど、内容は実は逆。

誰かに評価されるためではない、自分のための美容。

それは自分自身を優しく丁寧に扱う練習でもあって、その中で「私、けっこういいじゃん」に目覚めてゆこうね、なぜなら女子はみんな美しいのだよ!という、じつに愛が深くて力強いメッセージを、あらゆる切り口で伝えてくれる。

この本の説得力を支えているのが、著者の長田杏奈さんが美容ライターってことだ。

日がな最新の美容情報を追い、美しいモデルの顔を見て見て見まくる環境で鍛えた審美眼でそう言ってくれるのだから心底頼もしい。

 

まえがきに「美容コーナーでなく、フェミニズムのコーナーに並ぶような本を意識して作った」と書いていたように、化粧品や美容法の解説はちょっとしか出てこない。

その代わり、「女はこうあるべきである」という、現代の風潮に、軽やかに突っ込みを入れつつ、メディアが喧伝する理想像の圧に一度や二度は心が折れかけたことがある女性たち(つまり、すべての女性たち)をウィットに富んだ文章で励ましてゆく。

その怒涛の「あなたはあなたのままで大丈夫!」がバンバンと背中を叩いてくれるもので、ほんとうに大丈夫な気がしてくるから不思議。

 

若いうちは可愛げをもって仕事も恋愛もがんばって、素敵な彼と結婚してもキャリアアップを続け、やがて母になっても「性の対象としての」女であることを諦めずに、でもでしゃばらないで年相応の色気を身に付けつつキラキラと輝き続ける女性。

それが心の青写真に添った生き方であるなら何も問題はないけれど、外部の影響で自分自身に強制したものだったとしたら、もはや呪いに近い。

しかも、この攻略不能な無理ゲーに挑んで心をへし折られている女性はとても多い。

 

「容姿」ひとつとってもそうだ。

誰かにとっての「美人」であることを求められ、それに順応していたらある時から「おばさんがはしたない」「イタい」と叩かれる。だから「いつまでも綺麗な人」のお立ち台から引きずり下されないよう、客観を研ぎ澄ましてあらゆる微調整に神経を使い、気がついたら「私」は暗い地下室に置き去りにされている。

自由で喜怒哀楽があり、病めるときも健やかなるときも一生連れそってゆく自分自身を、「世間」なんていう無責任で曖昧なものに手渡してしまうなんてかわいそうだとおもう。

 

たとえ周りがそう言わなくても、「私は素敵」と自分で認めることは悪いことじゃない。

なぜならそれが「あなたも、そしてすべての女性が素敵」に繋がってゆくのだから。

そんな健全な自分への愛をすくすくと育てるための種をいっぱい撒いてくれる本なので、がんばっている女子ほど読んで欲しいと思います。

がんばり女子のパワーは、力の入れ方を変えれば「私が私であること」の喜びへ転換できるはず。

 

ちなみに私、この本を古本で買った。(なので、本の売り上げにはまったく貢献していない)

古本屋に売ってくれた人がいたから買えたことは重々承知のうえで、「うわー私なら絶対売らないよなぁ」と思う反面、私のようにふと手に取った、顔も知らない「美しい女性」にシェアしたいなという気持ちもあったりして。

 

 

 

美容は自尊心の筋トレ (ele-king books)

美容は自尊心の筋トレ (ele-king books)

  • 作者:長田 杏奈
  • 出版社/メーカー: Pヴァイン
  • 発売日: 2019/06/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)